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最高裁判所第三小法廷 昭和35年(オ)1051号 判決 1963年10月01日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人北山六郎の上告理由第一点について。

論旨は、原審の所論事実認定及びこれに基く所論悪意の抗弁を排斥した原審の判断に経験則違反があり、引いては原判決に理由不備の違法をきたした旨主張するにある。

しかしながら、原審の右事実認定は、これに対応する原判決挙示の証拠に照せば首肯し得るのであり、右認定の事実に基く原審の右判断は、正当として是認し得られるから、この認定判断に所論の違法はない。

論旨は、理由がない。

同第二点について。

論旨は、原審には、民訴三四条、二三八条の解釈を誤つたか、或は職権を以て調査すべき訴訟係属の有無につき判断を誤つた違法がある旨主張するにある。

記録を調査するに、本件については、札幌地方裁判所小樽支部において、昭和三二年三月一八日第一回口頭弁論期日を同年四月二五日午前九時三十分と指定し、適式の呼出を受けながら当事者双方とも同期日に出頭しなかつたこと及びその後、当事者双方から期日指定の申立がないまま、当裁判所において、同期日より三月を経過しない同年七月一七日本件を管轄違として神戸地方裁判所に移送する旨の決定をなし、同月一七日被上告人が、同月二二日上告人がそれぞれ、右決定の送達を受けたけれども、不服がなく、即時抗告の申立をなさなかつたこと、明白である。

かかる場合には、移送裁判所においては、訴訟を進めるために弁論期日を指定するはずはなく、受移送裁判所において、移送決定が確定した後、新期日を指定して訴訟を進めるべきであるから、訴訟を追行しようとする当事者においても、移送決定に不服がなければ、移送裁判所に対しては期日指定の申立をすることなく、受移送裁判所による新期日の指定を待つのが当然である。したがつて、この場合に、移送裁判所における弁論期日後三月以内に双方不出頭であつた当事者が期日指定の申立をしなかつた故をもつて、訴取下があつたものと看做すことは、当事者にとつて意外にして不当な結果をもたらすのであるから、かかる場合には、民訴二三八条の定める訴取下の効果を生じないものと解するのが相当である。

されば、本件について訴訟は依然として係属して居るものとして、本案につき審理を進めた原審の措置は、結局において正当であつて、これに所論の違法はない。

論旨は、理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 河村又介 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊)

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